VOICE

多様性が問われる時代だからこそ、しばられない自由な暮らし・間取りという選択肢を!

CREATOR’S VOICE

梅岡設計事務所

インタビュアー
大阪府住宅供給公社(以下「公社」という)が実施する団地リノベーションの事業提案競技(コンペ)はどのような印象ですか?
梅岡氏
近年では首都圏でも、団地全体の建て替えや住戸のリノベーションなど、団地の活性化や魅力が再発見できるような取り組みがされています。
公社が毎年実施するコンペは建築関係者の中では登竜門的な存在として知られています。
今回のコンペは過去のニコイチと比較してシンプルな内容(1住戸改修)であったため、当社も応募しました。

インタビュアー
コンペに取り組んでみて喜連団地の印象はいかがですか?
梅岡氏
最初は、写真で喜連団地の住戸の室内を見ました。窓から降り注ぐ光の明るさが印象的で、この窓辺の良さをプランに取り入れたいと第一印象で決めたんです。
一般的な団地は、古い、暗い、不便、画一的といったイメージを持つ方もいると思うんですが、実際にこの喜蓮団地に来て見てみると、窓ガラスにシールを貼っていたり飾り付けしていたり、柱に身長のしるしをつけたり、住んでいる方々の個性が出ていておもしろいなと感じました。

インタビュアー
以前梅岡さんが設計された「和菓子屋司KAMATARI」(高槻市)さんも今回見学させていただきましたが、店舗や各種施設などの設計と比べ、住宅の設計でこだわったことはどんなことですか?
梅岡氏
店舗などは商品が決まっているので、商品をどう引き立たせるかがポイントになります。
そのため、商品に合わせた雰囲気づくりが大切で、この和菓子屋の場合は、使われなくなった菓子型をお店のアクセントにすることで、アイキャッチをつくることも考えていました。
梅岡氏
今回は、団地なので色んな方が住まわれるため、入居される方々のどんな生活スタイルにも寄り添えるような自由度の高いプランをどう設計するかが重要だと感じました。
ここ数年でテレワークが普及し、自宅で仕事をする方が増えるなど、生活スタイルが変化してきました。
また、仕事であまり自宅にいない人や反対にずっと自宅にいる方、単身者の方もいれば、ご夫婦2人だけの家庭やお子さんがいるファミリーなど、家族構成やそれに伴う生活様式は様々です。
そういう点から、住まう方の多様性に対応できる間取りになるよう心がけました。

インタビュアー
設計していく中でこれはちょっと難しかったな、というところはありましたか?
梅岡氏
壁式構造の建物なので、室内にある構造的に重要な壁は動かしたり壊したりできませんし、浴室・キッチンなど水廻りの配管も移動できないことが難しかったですね。
壁や水廻りの位置が決まっている中で、いかに住みやすいプランにするかということでしょうか。
あとは、住戸ごとに床の高さや配管の位置が微妙に違ったりするので、施工業者や公社の方と話し合いながら工事を進めました。
梅岡氏
プランについては、室内の回遊性をどう持たせるかも考えました。
住戸内の動線も快適な暮らしに欠かせない大切な要素の一つです。
部屋としての区切りはほしいけど、空間のつながりもほしい。
すべてを塞いでしまうと窮屈になってしまうので、視覚的にも空間を広く見せる工夫は必要だと考えました。

インタビュアー
設計したプランで着目すべきポイントはどこですか?
梅岡氏
一番は、窓辺の仕様ですね。
北側と南側の二方向に窓があるので、明るいうえ風の通りが良くてとても気持ちが良いんです。
窓の上部には収納棚を設け、窓の下部には収納スペースのあるベンチを設置しました。
窓を囲むような空間になっているのですが、この窓辺のベンチで読書やお茶をするなど、ゆっくり寛ぐのも良いですし、植栽を置いてインテリアの飾り棚として使ってもらうのも良いと思います。
あとは、配管の関係でキッチンの位置は大きく動かせなかったんですが、向きを変えて窓の正面にキッチンを持ってきました。
梅岡氏
最近はテレビを持たない生活を好み、家の中ではスマホやタブレットを使う方が多い傾向にあります。
家の中で場所を決めずにどこででも趣味や仕事ができるような回遊性と、視界を遮らない開放感も意識してプランニングしました。
プランについては賃貸住宅なので、単身者からファミリーまで入居される方の家族構成や生活スタイルは、それぞれ違ってきます。
図面上では寝室やリビング、書斎といった場所を設定していますが、色んなパターンを想定して住まう人によって、どのような部屋としても自由に使えるような柔軟性を持たせるようにしました。
室内で採用した素材や仕様では、木の温かみをアクセントとして活かしたいと思っていました。
窓辺の仕様も木を使ったものになっています。全体としては、白を基調にニュートラルな印象にしました。

インタビュアー
賃貸物件の今後の可能性ついて、どのように感じていますか?
梅岡氏
今回のような公社さんの取り組みは、新しい人や若い人に知ってもらえる機会が増えるので転機になると思います。
それに昔、団地に住んでいた方が愛着を感じて戻ってきているという話も聞きます。
リノベーションすることで、良いものを引き継ぎながら残せていけることは貴重ではないでしょうか。
少し話はずれるかもしれませんが、新しく入居される方と長く住んでいる方の交流が盛んになると、さらに活性化していくんじゃないかと思っています。
千葉県の団地を見学する機会があったんですが、そこは建替えをして敷地内に公園など住人同士が集まれる場所を設置していたんです。
ママ友やお子さんが集まって遊んでいるのを見て、交流できる場所があるのは良いなと感じました。
今後は共用部の使い方など団地の魅力をどう活かすかがリノベーションの意義につながると思います。

プロフィール

梅岡設計事務所
代表 梅岡恒治 氏
HP:http://kumeoka.com/ Instagram:kojiumeokaarchitects Facebook:kojiumeokaarchitects
1982年 奈良県生まれ
2006年 東京大学工学部建築学科 卒業
2006-2007年 ポルトガル リスボン工科大学 建築学科 留学
2008年 東京大学大学院 新領域創成科学研究科 社会文化環境学専攻 大野秀敏研究室 修了
2008-2013年 磯崎新アトリエ スタッフ
2013年- 梅岡設計事務所設立
2018年⁻2019年 中央工学校 非常勤講師
2016年-2019年 まちつくり青梅 建築アドバイザー
2019年-2020年 東京大学 新領域創成科学研究科 特任研究員
2021年- 柏アーバンデザインセンター(UDC2) ディレクター
受賞歴
2015年 Tokyo Desing Week 2015「呼吸する建築」展 出展 (共同出展)
2016年 第2回 まちなか広場賞 大賞受賞「みんなのひろば」(デザイン監修)
2017年 尼崎パーキング設計コンペティション 佳作 (共同設計)
2018年 大分市中心市街地祝祭広場プロポーザル 最終5社
2018年 和菓子司KAMATARIがバリアレスシティアワード受賞
メディア掲載
2017年9月 Architecturephoto 掲載「和菓子司KAMATARI」
2021年4月 TECTURE MAG掲載「我孫子障害福祉サービス事業所」
2021年5月 建築情報サイトKENCHIKUの「KENCHIKUさん」に掲載「我孫子障害福祉サービス事業所」
2021年5月 オランダの建築情報サイト「archello」に掲載「和菓子司KAMATARI」、「我孫子障害福祉サービス事業所」
2022年9月 Architecturephoto 掲載「我孫子障害福祉サービス事業所」
2022年11月 Architecturephoto 掲載「SLIT」