緑豊かな住環境と光にあふれた住居に感激!末長く家族の歴史が紡がれるプランを提供したい
STUDIO RAKKORA ARCHITECTS
今回、大阪府住宅供給公社はインタビュアーと一緒に、設計者のSTUDIO RAKKORA ARCHITECTSの木村ご夫妻に「作品の想い」を伺いに行きました。
時代にあった間取りプランを提案したい!
この度「令和3年度 茶山台団地住戸改善事業 事業提案競技」に応募され、最優秀作品に選定されました。前回もご応募いただいていて2回目での選定と聞きましたが、その意気込みや想いを伺えますか。
若い世代が住まいを探そうとするとき、家賃を考えるとどうしても築年数の経っている住宅になりがちです。でも昔の間取りにあわせて今の暮らしをするのは少し窮屈で、それを我慢しながら暮らすのは、とてももったいないことだと思っていました。
これまでも少し手を加えてリノベーションすることで、今の暮らしに合うような提案ができたら良いな、と考えていたんです。そんな時に、若手の建築家の間で注目されているこのコンペを知って、自分たちが考えていることが提案できるのではと思って挑戦しました。
住まいが更新されて、まちに若い方や色々な世代の方が入ってくることで、まちが生き生きしてくるのではないかと思います。長い目で見てまちを良くしていきたい、そのためにこのコンペの場をお借りして、提案したいという気持ちがありました。
もう一度コンペに挑戦する!というその熱意に感服です。また、住宅の環境や暮らし方についても設計者からの視点で、常々考えていたからこその提案だったんですね、お二人の想いが伝わります。
恵まれた住棟の配置と室内空間に驚き!
プランニングにあたり、初めて茶山台団地に足を運んだ時の印象を教えてください。
コンペに参加するために初めて階段室型の団地の住戸に入ったのですが、両面からの採光で部屋がとても明るかったし、空間にも光が充満していて、すごく良い住環境だなと思いました。どの住戸も均等に明るくなるように、住棟間隔がゆったりと建てられているので、この内部空間が実現できるんだろうなと感じました。
最近の集合住宅は、もっと合理的に容積率をぎりぎりに設計して建てることがほとんどです。でも茶山台団地は住棟間隔に余裕があって、芝生や木の植え込みがあったりして。周辺も子どもが遊べるような公園や緑が多くて、自然豊かで遠くの風景ものどかで、それが印象的でした。建物は時代の趣が感じられますが、室内は明るくて外には緑があって暮らしやすい環境だなと思いました。
そうですね、茶山台団地に暮らしている方もそうですが、ここにお越しになる方は、住環境の良さが印象に残るようです。
団地の建設当初から、光の感じは変わらないんだろうなと思うと、積み重ねられた長い年月に触れたような気がしました。外部空間には緑があって、住戸内には光と風があるという団地のコンセプトを実際に肌で感じることができました。
「ニコイチ」と「リノベ45」の設計プランのこだわりについて
コンペでご提案された「ニコイチ」と「リノベ45」の設計プランには、色んなこだわりがあるようにお見受けしたのですが、その内容を教えていただけますか。
茶山台団地はいわゆる田の字プランで、特に「ニコイチ」では、建物の構造壁が壊せないという条件があるので、今の暮らしに合うように、どう変えていくかというのが、新しい暮らしの提案をつくるための大きなテーマでした。
住戸の両面からの採光をうまく活かしたいと思っていたので、既存の壁開口にあわせて他の開口を設けて、両面の光を同時に感じられるような動線を計画しました。その動線上に、ワークスペース、ベンチ、ドレッサーなどの机や家具を設けて、人の居場所をつくりそこに風が抜け、光が入るプランを計画しました。
両サイドの窓から窓のラインが、スッと通っていて印象的な間取りプランだなと思っていたんです。
窓のあり方を見直すことで新しい暮らしが生まれるのではないかと考えました。住まいを通して眺める、向かいの住棟や団地の緑などを、良い景色として感じることができると、自分の住んでいる場所が肯定的に思えるような気がしたので、それも重要なことだと考えました。
働き方やお子さんの成長など、ライフスタイルの変化にも対応できるプランに!
設計されたニコイチの住戸では、入居者の方にこんな暮らしをしてほしいといったイメージはありますか。
コロナ禍になってリモートワークが導入されるようになったり、フリーランスで働く方が増えています。約90m2もあるニコイチの住戸には、ワークスペースやスタディスペースなどデスクを設けているので、好きな所で仕事ができたり、お子さんが勉強したり、大人の趣味に使ったりなど色んな用途に使ってもらえたらと思います。
各々がそれぞれの居場所を選択できて、自然と家族が集まり、そこに光と風が介入することで暮らしが豊かになるプランをイメージしたので、お父さんの向かいでお子さんが勉強しているとか、お母さんがミシンを使っているとか、色んな場面が混じりあうと良いなと思います。
各所に配置された収納も特徴的ですよね。
ウォークインクロゼットやパントリー、書倉などの収納も1つの部屋のように区切っていますが、閉じられた空間にはせず、室内を歩くと風景が変わっていくというプランの特長を生かしました。もし、仕切るとなってもロールカーテンやブラインドなどを設置すれば、オリジナルのインテリアとして楽しむことができます。また、上部に設けた棚も開放的にすることで、室内の光を遮ることなく行き渡らせたいと考えました。
趣味・交流スペースのあるニコイチのプランもありましたね。
ニコイチの一住戸が2階の住戸で階数的にも訪問もしやすいことから、家に来てもらえるようなスペースを設けてみました。
近所の方と交流スペースにしてもいいし、仕事場として使ってもいい、お子さんの遊ぶスペースやワークスペースにしてもいいと思います。また間取り図ではベッドを置いて寝室としているスペースも、エントランスロビーのように使うとか、住まう方の好みに合わせて使ってもらえたらいいなと。子どもの成長やライフスタイルの変化に合わせて、住む方が色んなアイディアを出せるプランにしているので、ここはこう使いたいとか、ここは私のスペースにする、とか家族会議をしながら住むことを楽しんでほしいです。
リノベ45のプランでは、どんな暮らしをイメージされますか。
この住戸では、室内をあえて9つに区切っているのが特長です。小さい空間を増やすことで空間の多様性を生み出せればと考えました。
両サイドの窓からの風景を暮らしに取り込んで、それぞれの場所から色んなものが見えるようになると面白いなと思います。
室内の壁も普通の壁とフレームの壁の2種類あって、区切る部分と透かしを入れる部分をつくって、室内をデザインしています。細かく区切っているのに狭さを感じさせず、スペースの有効活用もできるので、狭くても豊かな暮らしができるのではないかと思って気に入っています。また壁の上部が一部欄間(らんま)になっているので、天井まである壁に比べるとバウンドした光が他の部屋にも届きやすくなります。
ダイニング、キッチンに光をどう取り込むかも重要だったので欄間を設けることでうまく解決できた印象です。照明の効果で、フレームの影が空間の演出につながっていると感じています。
これは団地のコンセプトと当社が提案するコンセプトと共鳴する部分なのですが、ニコイチもリノベ45も2〜3年という期間ではなく、10年、20年という長いスパンで住んでいただけると嬉しいですね。
あの時は、こう使っていたけど今はこんな風に使っているとか、家族の成長とともに使い方が変わって、家族の歴史を紡いでいけるような家になると嬉しいです。
私たちも長く住んでもらえるように、入居者の方々の声を聞きながらこれからも携わっていきたいと考えています。今回の住戸も気に入って住んでもらえると嬉しいですね。
家具職人を採用した室内デザインへの想い!
今まで「ニコイチ」や「リノベ45」のコンペで色んなプランを選定してきたのですが、今回すごいなと思ったのはリノベーションの工事に大工ではなく、家具職人に依頼されたことです。そこには、どんな狙いがあったんでしょうか。
建築コストを考えると合板や新建材になりやすいのですが、それだとプランが空間に与える印象が強くなり過ぎる気がしていました。そこで、無垢材を家具のような間仕切りのフレームとして使うことで、空間の趣きや豊かさやに繋がるのではないかと思いました。
フレームの材料は北海道産のクリとサクラの木を採用しました。形状は同じでも、木の種類によって印象が変わるのも素材の魅力だと思います。無垢の材料を使うことで、プランニング以上の空間の良さが引き出せるといいなと考えました。部屋に入った時にふわっと感じる、豊かで気持ち良い空間を実現したいと思ったんです。
建築と家具の間のようなことができたらいいなと思っていたので、木材の良さを引き出すために、住戸内のデスクや家具などの内装工事は思い切って家具職人さんにお願いしました。家具職人さんは手で触れた感触を大事につくり込んでいくんです。大工さんとは違った納まりや仕上げなどが実現できたことで、この提案に必要な要素になっています。
完成が楽しみです!それから室内の塗装も、ちょっと変わっていますよね。
解体で壁を剥がした時に現れるコンクリートの風合いが印象的だったので、その雰囲気を残しつつうまく塗装できないかと考えました。均一に塗ってしまうよりも、そこにある歴史が感じられるような風合いを目指しました。
工事中の現場を見ていると気持ちのこもった作業をされているな、という印象を受けました。気になっていたんですが室内の照明も特徴的ですよね。
シーリングやペンダントは、家族みんなの居場所であるリビング・ダイニングに絞りました。その他はそれぞれの居場所がつくりやすくなるような照明計画を行い、壁や天井付けの照明にしています。
なるほど、細かいところまで配慮されていますね。最後に、今回の感想をお願いします。
ゆったりとした住棟間隔による室内の明るさや、緑豊かな周辺環境がとても印象的でした。こうした茶山台団地の魅力を今後の設計にも繋げていきたいと思います。
ここに住む方がポジティブな気持ちで暮らしてもらえたら、まちのバトンも受け継がれていくんじゃないかと思いますし、さらにまちが活気づいていくと私たちも嬉しいです。
プロフィール
STUDIO RAKKORA ARCHITECTS
1980年 京都市に生まれる
2006年 京都工芸繊維大学大学院修士課程修了
2006年〜2011年 株式会社 東畑建築事務所
2011年〜 木村日出夫建築研究所設立
2014年〜 STUDIO RAKKORA ARCHITECTS 設立
2021年〜 京都女子大学非常勤講師
1981年 大阪市に生まれる
2006年 京都工芸繊維大学大学院修士課程修了
2007年〜2014年 株式会社 坂倉建築研究所
2014年〜 STUDIO RAKKORA ARCHITECTS 設立
2015年〜2017年 神戸女子短期大学非常勤講師
2017年〜 京都女子大学非常勤講師
2019年〜 帝塚山大学非常勤講師
2020年 ウッドデザイン賞2020「金閣原谷会館」がウッドデザイン賞2020ハートフルデザイン部門を受賞
2021年 サンワカンパニー デザインアワード 2020プロダクトデザイン部門で「NICHE380」がサンワカンパニー賞を受賞
2021年 イリノイ大学アーバナ・シャンペーン校 Japan House の設計提案競技で設計者として選定される
2021年 「旧八女郡役所」が第7回福岡県木造・木質化建築賞特別賞を受賞
2021年 「令和3年度公社茶山台団地住戸改善事業 事業提案競技」で最優秀作品に選定される
2021年 屋根のある建築作品コンテスト2021TANITA GALVA部門で「三島の家」が最優秀賞を受賞
2018年 「話題のショップをつくる注目の空間デザイナー・建築家100人の仕事」