団地に携わる職員ならではの視点で、団地の魅力を探りながら活かすリノベーション

団地に携わる職員ならではの視点で、団地の魅力を探りながら活かすリノベーション

クリエイターの声

 例年、コンペ方式で実施していたリノベ45・55事業ですが、令和6年度は公社職員がプランニングを行いました。普段から団地に携わっているからこそのアプローチや、その過程で直面した課題について、事業を担当した公社職員がブログ形式でご紹介いたします。

リノベーションの舞台は鴨谷台団地

 実施団地は、前年度と同じく堺市南区の鴨谷台団地です。泉北ニュータウン内に位置し、最寄り駅の光明池駅までは徒歩10~12分。公社団地の中では比較的駅チカで便利な立地です。
 そんな鴨谷台団地はいくつかの課題を抱えていました。
1.バルコニーが1面のみの部屋では、エアコンが1台しか設置できない
2.公園を囲む住棟配置のため、南向きではない住戸がほとんど
3.築50年ほど経過しており、間取りや設備が現在のニーズに合っていない
などなど…。
 これらの課題を解消するために、令和5年度にはサロンアーキテクツさんと株式会社アットライズさんがリノベーションを実施してくださいました。風通しがよく、居場所を持ちながら家族とつながれる、素敵なお部屋に生まれ変わりましたよね。(令和5年度リノベ45・55のインタビューはこちら

設計開始から住戸完成・募集開始までの流れ

 職員がここまで大規模なリノベーションをプランニングする機会はなかなかないため、貴重な経験に期待感を抱く一方、何から取り組むべきか、また自分がどの程度のものを作り上げられるのか、戸惑うことも多くありました。
 プラン検討開始から工事、募集準備までの大まかな実施スケジュール(第1期)です。

■プラン検討(4~8月)
 壁の位置や長さ、暮らしやすさなどについて多くの意見交換を行いました。当初は、ガラスの間仕切り建具や間接照明を取り入れたプランなどを検討していましたが、費用や工程の課題があり実現には至らなかったものもありました。
 間取りが決まると設備や家具の選定です。様々なカタログを比較し、時にはショールームでお話を伺い、実物を見ながら一つずつ決めていきました。

■工事(9~11月)
 工事が始まると解体箇所や細かな納まりの確認です。特に今回のプランでは、壁や柱などの一部を再利用しているため慎重な解体作業が必要でした。
工事中は、納まりなどの現場確認や施工業者との打ち合わせを重ね、工期内に完成できるよう進捗管理を行いました。

■募集準備(11~1月)
 完成が近づいてきた頃、当サイトの改修やSNS発信、物件サイトへの掲載などのプロモーションを行い、いよいよ募集開始、という流れです。

 スケジュールを見返すと、プラン検討にはかなりの時間をかけたことを実感しますが、改めて、短期間で精巧なプランを仕上げられるコンペ応募者の皆様には心から尊敬の念を抱きます…。

設計の意図・ポイント

 今年度も前年度と同様に、バルコニーの形が異なる2つの部屋タイプを、Aタイプ・Bタイプに分け、それぞれリノベーションを実施しました。入居者のターゲットは、若年単身から若年夫婦、そして若年子育て世帯を想定しています。それぞれのプランについて、設計のポイントを紹介します。

■Aタイプ(片面バルコニータイプ) 「鴨谷台のやさしい風が通る」


①2面採光を活かした風通しの良いLDK

 バルコニーが片面のみでエアコンが1台しか設置できない住戸タイプのため、前年度のリノベ45・55を参考にし、壁の向きや配置を工夫して、風通しの良い間取りを意識してプランニングしました。2面採光という長所を最大限に活かせるよう、窓と窓を結ぶ対角線上にLDKを設けて、視覚的にも体感的にも風や光が通る空間を目指しています。



↑Aタイプ間取り図

②大きな梁の内側は寝室に

 部屋の天井に通るT字型の梁は梁せいが大きく、構造体なので解体することはできません。梁に囲まれた空間は閉塞感を与えがちですが、梁がプラス要素として働くと考え、落ち着きのある空間が求められる寝室にしました。実際に完成した住戸に入ってみると、梁の有無が開放感や閉塞感に大きな影響を与えることを実感しました。ただ、寝室としては少しオープンすぎる印象もあり、今後の改善点として検討の余地があると感じています。



↑梁に囲まれた寝室空間

③既存を活かしつつも刷新感を出したい

 「既存の構造や素材を最大限に活かす」「現代的で新しい魅力を引き出す」という2つの要素をひとつの部屋に調和させることを目指したので、空間の印象を大きく左右する内装材は、時間をかけて慎重に検討しました。緑豊かで風が吹くフランスの田舎の家をイメージし、団地の持つ心地よい雰囲気を大切にしながらも新しい魅力を引き出すことを意識して、温かみのある木目と白を基調に、アクセントとして柄や色を取り入れました。特に洗面脱衣室のブルーのタイル柄は、珍しさがありながらも団地に馴染んでいて、お気に入りの部分です。



↑ブルーのタイル柄が印象的な洗面脱衣室

■Bタイプ(両面バルコニータイプ) 「鴨谷台レトロモダン」


①行き止まりのない、付かず離れずの2LDK

 もともとの部屋は団地特有の「田の字型プラン」と呼ばれる3DKの間取りで、部屋が細かく区切られていました。また、建物の構造上、水回りの位置を大きく変更できないという制約もある中で、脱・ザ・団地の間取りを実現し、さらに両面バルコニーの良さを活かして風通しを確保することを目指しました。そのために、視線と動線の検討や壁の足し算・引き算を行い、行き止まりをなくして回遊できる間取りにし、どの場所も「好き」と思えるような使いやすさを追求しました。



↑Bタイプ間取り図

②大きな梁は「空間を切り替える装置」に

 部屋の天井に通るT字型の大きな梁が、視覚的に空間を区切る役割を担うと考え、梁を空間の一部として活用しました。梁下を縁取る木部をチョコレート色に塗装して目立たせ、梁をくぐることで別の部屋に入ったような感覚を味わってもらうことを狙いとしています。完成後に行った職員向け内覧会では、意外にも梁の存在が気にならないとの声があり、狙い通りになったかなと安堵しています。



↑梁が空間の一部となり、ゆるく仕切ります

③団地の良さを継承していきたい

 工事前の現場調査で「レトロモダンをテーマにしよう!」と思いました。建設当初からの柱や壁が、時間の経過とともに「味わい」として現れているように感じ、前の住人さんが長年丁寧に暮らしていたことを実感しました。これからもそんな部屋であってほしいと感じたので、ガラスの入った欄間や柱を残し、きれいに仕上げ直しました。新しく取り付けた柱はあえて無塗装のままにしているので、これから住む方々と共に年月を重ねながら、自然と良い色に変化していくことを楽しみにしています。



↑懐かしさと新しさが融合する空間

事業を通しての感想

 今回は公社職員がプランニングを行いましたが、決してゼロから考えるということではありませんでした。公社にはこれまでに「リノベ45・55」や2戸を1つにする「ニコイチ」などの様々な取り組みがありました。また、それらの実施には至らなかったもののコンペに応募いただいた設計者の方々のアイデアを参考にすることができました。さらに先輩職員からは、団地に長く携わってきたからこその経験や知識を教えていただきました。
 こうした中で、本格的な設計の経験はないものの公社職員だからこそ実現できるリノベーションがあることを実感し、それを具体的に形にしていきたいという気持ちで取り組みました。今回の事業を通して、それを形にできたかは不安が残りますが、その可能性を探ることができたのは大きな成果だと思っています。

今後のリノベーションについて

 団地リノベーションが、多くの方々に団地の魅力を知ってもらうきっかけになってほしいと考えています。団地に馴染みのない方々にも、リノベーション住戸を通じて団地という場所での暮らしに新たな視点を持ってもらいたいです。今後は、団地が持つ独自の魅力や特徴を探り、それを引き出すリノベーションを進めていくことで、団地に新しい価値を提供できる取り組みを続けていきたいと考えています。