「団地は磨けばダイヤモンドになる“原石”」
Plan 1~2
今年、株式会社新宅工務店大阪とハプティック株式会社が共同で設計・提案した作品は、「大阪府住宅供給公社茶山台団地・香里三井C団地住戸改善事業 設計・施工業務」の事業提案競技において、 A業務(茶山台団地リノベーション)の最優秀提案者として選定されました。そこで今回はデザインを担当したハプティック株式会社のお二人にお話を伺いました。
元々、団地に対してどのようなイメージを持たれていましたか?
荒山氏)団地って1・2階は埋まっていても4階以上は空家になっていたり、ネガティブなイメージをエンドユーザーに持たれてしまうんです。弊社はリノベーションを手掛けているかたわら、物件紹介サイトの「グッドルーム」を運営しているので仲介業者的視点も持っています。その視点から見ると、団地だからこそ面白いものを作っていかなければならないと考えています。おそらくそういった危機感を持っている方は多くて、各地の団地で様々な面白い取組みが行われていますよね。そう考えると団地は磨き方でダイヤモンドにもなる「原石」だと思います。
設計のコンセプトを教えてください
武尾氏)ニコイチ・リノベ45の3プランで共通して大事にしたいのが無垢フローリングです。弊社はいつも無垢材を使ったリノベーションを行っているので、予算的な面で厳しくなっても「無垢を張りたい!」という気持ちが社内の共通認識としてあります。あとは、住棟にエレベーターがないことや立地的にアップダウンの多いことを考慮して、家の中で長い時間過ごすための仕掛けを各プランに盛り込みたいという思いがありました。
ニコイチ「ママが主役。充実のキッチン空間がある家」間取図、イメージパース
武尾氏)まず「ママが主役。充実のキッチン空間がある家」に関してはキッチンがメインのお部屋ですね。壁付のキッチンを思い切って対面キッチン化しているのが大きな特徴です。またキッチン横にはお子さんがお手伝いしやすいようにキッチンの高さと合わせたカウンターを設置しています。家族が集うための仕掛けですね。
反対側の居室にはシナ合板張りの大きなオープン収納を置いているんですが、木の箱が室内にあるようにデザインしました。あとは全面に無垢フローリングを貼るのではなく長尺シートを床にポイント使いしています。無垢材の木目とプレーンなグレーの対比が逆に面白い仕上がりになっています。
ニコイチ「家族を繋ぐ、インナーテラスがある家」間取図、イメージパース
武尾氏)次に「家族を繋ぐ、インナーテラスがある家」ですが、こちらのタイプは住戸間の壁が壊せない構造だったので、普段からバルコニーの出入りを何度も繰り返すだろうなということを念頭に置いてデザインしました。バルコニーの近くにインナーテラスを設けているんですが、室内に入っても半屋外の雰囲気があるのがポイントです。少し腰かけられるようなベンチを置き、意図的な柱・梁を設けています。床は多少水をこぼしても問題ない材質のシートを貼っているので、植物を育てたい方には絶好のスペースになるだろうと思います。現実的な使い方ですと、部屋干しもおすすめですね。
あとはリビング横の居室は、完全に壁で区切るのではなくカーテンレールを設置しています。自由に空間を仕切れることで将来的にフレキシブルに対応できると思います。
荒山氏)冬の寒いときにバルコニーを通って部屋を行き来するのは、ある程度モチベーションが必要だと思うんです。なので、子どもが楽しめて、思わず「隣の部屋に行きたい!」と言ってしまうようなインナーテラスを設けることにしました。
リノベ45「無垢床が気持ち良い広々リビングのある家」間取図、イメージパース
武尾氏)「無垢床が気持ち良い広々リビングのある家」は玄関を入ってすぐに土間風の空間があって、そこは趣味に使えるマルチスペースとしています。かなり広いスペースを取っているので、自転車なんかも持ち込みやすいですよね。そこにプラスして長いカウンターを設けているので、書斎としても使えますし。先ほどのプランと同様、意図的に梁材を渡すことで、お気に入りのものをディスプレイすることもできます。
二人ぐらしもできる部屋だと思うんですが、これだけ趣味の部屋を大きく取っているので、「ぜいたくな一人ぐらし」をしたい方におすすめですね。
設計の段階で気を付けていることはありますか?
荒山氏)私たちの特徴は「グッドルーム」という仲介サイトを持っていることです。日々エンドユーザーと接していますので、日本のリノベーション会社の中で最も入居者視点を持っている会社だという自負があります。設計するプランナーとともに仲介業を行う社員がいるので、お部屋のプランやアイデアを仲介スタッフがすぐにチェックすることができるんですよね。最前線の入居者ニーズを詰め込んだプランを描くことを心がけています。
武尾氏)設計をする立場としては、「この素材を使った方がかっこいい」、「このレイアウトの方が良い」と自分が考えたことが必ずしもハマるわけではない点がおもしろいと思っています。自分がいいと思ったものでも、仲介スタッフに聞くと「入居者は求めていない」という話になったりするので…。設計者と仲介スタッフが協力して、入居者が喜ぶ間取りや仕掛けを作っていけるのは私たちの強みですね。
どのような方に住んでもらいたいですか?
荒山氏)家に愛着を持てる方に住んでもらいたいですね。ふつうリノベーションをしたお部屋は相場より家賃が高くなりますが、それでも住みたいという方は、「部屋に惚れている」と言えますよね。そういう愛着を持ってもらうって部分に「無垢フローリング」はぴったりです。無垢材は使い込んでいくとどんどん味が出てくるんですよ。極端な話をするとお寺を想像していただければ分かりやすいと思います。300~400年かけてたくさんの人がその上を歩くことによって、表面はなめらかでなんとも言えない渋みを出しますよね。なので、そのように味を増していく無垢をお部屋に使うことで、家賃が相場より高くなっても部屋に惚れ込んでほしい…愛着を持って長く住んでもらいたい…そこに尽きますね。
団地で行うリノベーションの可能性について聞かせてください。
荒山氏)冒頭にお話させていただいたように、団地は「原石」だと思っています。今まで茶山台団地で行われている団地リノベーションを振り返っても非常にレベルが高いものばかりなので、それを超えていこうとするのは、リノベーション屋としての自分たちの成長にもつながると思います。以前、弊社では泉北ニュータウンの栂・美木多エリアでも団地のリノベーションを行ったんですが、そのお部屋には大阪市内で部屋を探していた方が入居されました。その方は特に団地に対してネガティブなイメージを持っていなくて、大阪市内に比べたらお得に住めるなあという感覚なんです。そういう方に市内から郊外へと住んでもらい、「団地っておしゃれでお得に住めるんだよ」ということを定着させていきたいですね。
プロフィール
荒山知樹
執行役員/関西・中部エリア統括マネージャー
同志社大経済学部卒、リクルート、ベネッセコーポレーションで企画営業を経てHAPTIC㈱入社。東京で3年間リノベーション営業マネージャーを経験し、3年前に関西・名古屋支店立ち上げで異動。
プロフィール
武尾篤
リノベーション施工部設計 主任
ICS College Of Arts卒、北欧コントラクト家具輸入代理店、商業施設デザイン事務所を経てHAPTIC(株)入社。3年間リノベーション設計業務に従事