VOICE

入居者さんが手を加えられるきっかけと可能性を残した状態でゆとりを持たせたい

CREATOR’S VOICE

Plan 3〜5

木下昌大建築設計事務所の木下氏(左)・山崎氏(右)

今回、事業提案競技に応募されたきっかけを教えてください。

団地に対しての率直なイメージは「僕たちの親世代のために建てられた」というものでした。そういう面からみると一世代分の役目は果たしたと思うのですが、実際には今も住んでいる方々がいて、住宅を使いながら更新していかないといけない。壊して建て替えることが安易な開発だとしたら、更新するという行為は対極にあるものですよね。使いながら新陳代謝していくというか。そういう意味ではすごく難しいテーマですが、日本の住環境を引き継ぐ世代の建築家として、どこかで関わって何かしらの回答を出したいという思いはありました。

設計のコンセプトを教えてください。

前提として、ニコイチにするということは、家族一人当たりの面積にゆとりが持てるということです。そのゆとりの部分をどのように活かしていくのかと考えた時に、個室の数を増やしたり、リビングダイニングをそのまま大きくするのは違うような気がしました。何か別の切り口で余ったスペースを活かしたいと思い、「サンルーム」・「通り庭」・「ガレージ」という外部と内部をつなぐ「中間領域」となる土間のような空間を置くことにしたのです。戸建の住宅ではふつうに手に入れることができるそういったスペースを集合住宅でかなえることで、生活の幅が広がるのではないかと考えました。また僕たちが設計したニコイチは、構造上の問題で住戸の壁を壊せないパターンだったので、バルコニーと階段の踊り場で2つの住戸をつなぐことになります。2つの住戸をつないでいる外部の空間に対して、半屋外のものをワンクッション置けば、その部分の連続性というかつながりが強くなり、住まい手がうまくニコイチを使いこなせるのではと考えました。

リノベ45に関してはいかがですか?

リノベ45「サンルームがある家」間取図
リノベ45「サンルームがある家」間取図、イメージパース

リノベ45「サンルームがある家」間取図、イメージパース

基本的な考えは同じです。今回リノベーションした後に入居する世帯人数は、当初この団地が設計された時よりも、少なく想定されていますよね。当初は4人家族くらいの仕様だったはずですが、今回は1人~3人家族をイメージしています。そうなると家族一人当たりの面積にゆとりが持てるということです。そのゆとりに対してどうアプローチするか。余るべき場所というか、積極的に余ることになる場所というものをどのように活用するか。そういう意味ではニコイチと同じですね。

「サンルーム」、「通り庭」、「ガレージ」はどのような使い方ができると思いますか?

「サンルームがある家」間取図
「サンルームがある家」イメージパース

ニコイチ「サンルームがある家」間取図、イメージパース

「サンルーム」はバルコニーを拡張したような空間です。すごく高密度に建てられている現在の住宅に比べて、団地は住棟間隔がしっかり取られているので日当たりがすごくいいんです。日当たりのいいサンルームで朝ごはんを食べて、朝の時間をゆったり過ごせたらいいなあと思いました。床がモルタルなので、子どもが多少食べこぼしてもふき取りやすい仕上げです。また、観葉植物を室内で育てるのが一般的になってきたので、グリーンを楽しめる場所も備えられたらいいなという思いもありました。

「通り庭がある家」間取図
「通り庭がある家」イメージパース

ニコイチ「通り庭がある家」間取図、イメージパース

「通り庭」は回遊性のある形にし、その周りを様々な居室が取り巻いているイメージです。廊下のような役割なのですが、そこを土間床にしてスペースを大きく取りました。大きいスペースがあるだけで、友人を招いたり、子どもとゆっくり食事したりもできますよね。それぞれの部屋と通り庭とをどう使っていくのかは、住まい手次第かなと思っています。

「通り庭がある家」間取図
「通り庭がある家」イメージパース

ニコイチ「ガレージがある家」間取図、イメージパース

「ガレージ」は玄関を拡張したスペースなのですが、玄関周りにゆとりができると機能的な部分が充足されますよね。自転車をメンテナンスしたり、ベビーカーを置いたり。DIYもこのスペースでできると思います。何かモノを作れるスペースがあると、趣味の幅が広がりますよね。また、この3つの空間のネーミングには気を配りました。ただ「土間」と言うよりも、なんとなくなじみのある「サンルーム」、「ガレージ」、「通り庭」と名付けた方が、「ここでこういうことしよう!」というイメージが湧いて使いこなしやすいですよね。

設計の段階では、住まい手のイメージなどはされますか?

設計する時は、自分が住みたいかどうかという視点で「こうあったらいいな」とイメージしています。今回の設計にあたっては、僕自身が現在子育て世帯なので、イメージしやすかったです。現代では、家に居るときにいかにストレスを解消できるか、リフレッシュできるかが重要だと思うんです。家が狭くておもちゃをしまう場所もないと、ある種のストレスを常に抱えていることになりますが、ニコイチは面積が広くてのびのびしているので、空間がとても豊かです。余計な作りこみをせず、入居者さんが手を加えられるきっかけと可能性を残した状態で、ゆとりを持たせたいという思いがありました。

その他こだわったことがあれば教えてください。

全ての居室を新しくきれいにリノベーションするのではなく、クリーニングのみ行うような居室があってもいいのではと思い設計しました。刷新した部分と昔の名残を残した部分が同時に見えてくる風景は独特のものですよね。時間を経た建物にしか出せない空気があると思います。

プロフィール

木下昌大(写真・左)
一級建築士、京都工芸繊維大学助教。1978年、滋賀県出身。2003年、京都工芸繊維大学大学院修士課程修了。C+A、小泉アトリエに勤務後、2007年にKINO architectsを設立。日本建築学会作品選集、グッドデザイン賞グッドデザイン・ベスト100、東京建築賞最優秀賞等、受賞歴は多数。

山崎雅嗣(写真・右)
一級建築士。1985年、高知県出身。2009年、横浜国立大学建設学科建築学コース卒業。2012年?、筑波大学大学院芸術専攻貝島研究室修了。2013年?よりKINO architectsに勤務。