VOICE

テレワークなど生活スタイルの変化にも柔軟に適応。
ちょうど良い加減に仕切った「ロの字型」プラン

CREATOR’S VOICE

株式会社ナノメートルアーキテクチャー一級建築士事務所

―団地にどのようなイメージを持っていましたか。茶山台団地の現地をみてイメージは変わりましたか。

三谷氏:大阪の豊中市で生まれ育ったのですが、団地というと千里ニュータウンの団地のイメージがありました。茶山台は、敷地内の道が色んな方向に走っていて、棟配置の向きも色々で、単調さがなくて個性があるなと思いましたし、それが豊さにも繋がっているんだと感じました。

野中氏:茶山台に来てみたら敷地内に起伏があって、団地って平坦な所に整然と棟が並んでいるイメージだったので、階段や道路が入り組んでいたり棟配置も色々で私がイメージしていたオーソドックスな団地とは違って、新しい斬新な感覚を覚えました。

上下階のニコイチと庭付きリノベについて、どのように感じましたか

上下階のニコイチ

少々無茶振りな感じがあって「本当に!?」と思いましたが、とてもチャレンジングで面白いと感じました。
今回、4階を住む場所、5階を働く場所という風に考えたんですが、本当にそれでいいのかギリギリまで悩みました。一方の住戸を遊びなど何かに特化したプランも検討したんですが、それだと年に数回しか使わないとか、自転車がポツンと置かれるだけになったりするのではないかという懸念があって、そうなるのは悲しいので4階と5階を行き来する生活になるように設計を考えました。

庭付きリノベ

設計を考えた時に庭とマンションの使い方について、過去のプランを含め海外の事例などもリサーチしました。ただ単に私たちが見つけられなかっただけかもしれませんが、1階とつないで個人のスペースとして使っているものに出会わなかったので、その時点でこれは新しい試みなんじゃないかと感じました。コロナ禍にあって、外をどう使っていくのかという公社の社会の動きを取り入れた要望だなと、それに対してどう応えるか真摯に考え取り組みました。

特徴的な「ロの字型」に込めた想いとは

「田の字型」を「ロの字型」に!

既存の間取りプランは、壁で部屋を4分割する俗に言う「田の字型」のプランで、公社から提示されたコンセプトに、どう近づけるかを色々と考えました。壁を取って大きな空間にすることもできますが、住まわれている方のアンケートなどを見ると、広すぎて使い方が分からないとか、物置になっていたりして想定したプランとのミスマッチがやや見受けられました。
もともと私たちの信条として、広いリビングなので家具が自由に配置できますとか、どういう風にでも使えますよ、といった住む人に任せっきりのプランは作らないようにしていることもあり、家族の成長や生活スタイルに合わせて、使い方を変化させられてこんな暮らしにして行こう!という気づきを与えるガイド的な間取りとして、壁を足して良い加減で広さや形を設けられる「ロの字型」プランを採用しました。
今回、提示されたコロナ禍にあってどう働くか、というコンセプトもあってワークスペースをどう確保するかを考えた時、分節することでできることの広がりは確実にあると感じました。テレワーク率が高まり、今まで以上に時間や空間の使い方の変化が激しくなっています。現状に限らず、今後も時代の流れに柔軟に対応できる間取りにするには、こういう風にしか使えないという決めすぎる間取りよりはある程度、区切られた空間を造り「ここならこう使える」という想像を膨らませられることが大事だと考えます。
一般的には、◯LDKといった捉え方をするのですが、今回は4LDKにも3LDKにもワンルームにもなる間取りです。◯LDKにならないという意味では、子ども部屋のような場所、パントリーのような場所だけど納戸にもなるし、3年後にはスタディースペースのような場所になっている。「・・・のような」という確定しきらない場所がいっぱい残されている、そういったちょうど良い加減、良い塩梅を実現するのが「ロの字型」プランなのです。

それぞれのプランのポイントや暮らし方のイメージを教えてください

3つのプランの共通ポイント

今回のコンペは、庭付きリノベ、上下階のニコイチ、ヨコ並びのニコイチの3つのプランを設計しました。この3つのプランに共通するものとして室内に設けた「ランドリー・サンルーム」、「ひだまりテラス」、「床に段差をもうけた収納スペース」があり、どれも家事効率や使い勝手を意識したプランになっています。

室内に設けた「ランドリー・サンルーム」は、実は私たちの実体験からきています(笑)今、住んでいるマンションのベランダの出幅が少なくて、室外機をおくと狭くて洗濯物を干す時も大変で、使い道はそれしかない。そこで室内にランドリールームを作ってみたら、とても便利だったんです。ベランダに洗濯物を干すと窓からの風景が見えなかったんですが、室内干しにしたら眺めが良くなりました。それに、急な雨や寒い日に洗濯物を取り込むこともなく、花粉の季節は外に洗濯物が干せないのでランドリー・サンルームがあることで家事が楽になってとても助かっています。茶山台団地は棟間隔があって日当たりも良いので、室内干しでも十分乾くと思います。

窓辺の「ひだまりテラス」は、出幅が少ないベランダで子どものプールや今、流行のべランピングをしようと思うとちょっと大変です。そこで窓辺にベンチを設置すれば、ベランダにテーブルを置いてベンチで寛ぐことも、プールで遊ぶ子どもを側で座って見守ることもできます。また、洗濯物を干す時にカゴを置くことも、植物を置くといった使い方もできます。普通は窓付近に段差をつけないのですが、茶山台団地は自然が豊かなので外を眺めながら佇める時間や場所があることで、暮らしに豊かさを取り入れたいという思いから採用したプランです。

「床に段差をつけた収納スペース」については、立体的な使い方というテーマを意識して考えました。収納が少ないのは住む人にとっては苦痛になることもあるので、あったらあるだけ嬉しいのが収納だと思います。寝室は、寝るだけのスペースなので天井高がそこまでなくても大丈夫だと思ったので、床を少し高くして床下に収納スペースを設けました。加えて、収納ボックスを置けばフリースペースやベンチの下も収納スペースにできるようになっています。
また、収納でいえば「ロの字型」の壁面に棚やフックが設置できるようになっていて、住む方しだいで工夫ができる仕掛けになっています。

庭付きリノベ

夫婦2人の新婚さんや乳幼児のいるファミリー、または子育てが終わったご夫婦を想定して設計しました。お子さんが小さいとベビーカーに乗せて公園まで行くのが大変な時がありますし、ご年配の方だと段差がキツイこともあるので、お部屋とお庭との間にある1m程の高低差を活かしながら、デッキテラスを設けて外とのつながりを楽しめるようにしています。また、お庭の前は団地内の道が接しているため、歩行者と視線が合うことなく寛げるようデッキの高さを工夫しています。
プランの中では、子ども室にしていますが乳幼児であればマットを敷いて寝かせられるので、子どもの様子をみながら横のワークスペースで仕事ができます。また、2〜3歳になるとおもちゃを置いてキッズルームにできますし、大きくなると1つの部屋として区切ってワークスペースを勉強部屋にすることもできます。 ご年配の方だとフラットでテラスに出られ自然を身近に感じながら生活ができますし、気分の良い時は庭に降りてガーデンニングを楽しむこともできます。



上下のニコイチ

イメージしたのは小学校高学年から高校生くらいのお子さんがいるファミリーです。上下階の間取りを“住む住戸”と“働く住戸”で分けてしまうと、子どもは住む住戸にしか行かないということになり、自分の家なのに家を使いこなせないことになってしまう。そこで、全てを使いこなせるよう上の階と下の階を行き来する両方ある豊かさを感じてもらえるようプランを考えました。 親は仕事で疲れた時、お子さんは勉強の合間の気分転換で、一度外に出て階段で行き来することでリフレッシュの要素と、オンとオフの切り替えができるメリットがあります。色んな意味で、特長的な生活体験ができる間取りになっています。



ヨコ並びのニコイチ

この間取りは、小さいお子さんがいるファミリーや夫婦共働きの家庭など幅広い層のご家族にマッチする間取りを採用しました。ベランダを介して隣の住戸に移動する動線は、同じマンションに住む祖父母の家や親類の家に、供用廊下を歩いて遊びに行く感覚があって楽しいと思いました。 ワークスペースのある空間にランドリールームを設けたので、自宅で仕事をしながら隙間時間に家事をしたり、お子さんの様子を見ながら作業をすることがきます。仕事と家事の時間が分けにくい状態でも、対応できるプランを心がけました。また、子どもが巣立ったり、親と同居することになるなど生活スタイルが変化しても、ロの字の真ん中の部屋にみんなが集まるとか、個々の部屋で自由に過ごすなど柔軟に対応できるプランになっています。

郊外団地×これからの働き方の可能性についてどう感じますか

用途地域やその地域の規制などがあるので、そういった規制を横に置いた考えになると思いますが。茶山台団地は、敷地が広く巨大なので買い物に行くとか大変なのでは?と考えたりします。車がある方はショッピングモールに買い物に行くと思いますが、高齢の方だと近くにある方が良いでしょうし、楽しめるコミュニティが敷地内にあると生活も楽しくなると感じます。 例えば、今回の庭付き住戸をテラス付きのパン屋とかカフェにするとか、庭付き住戸を横にずっと並べて庭で遊べる子育て施設にするとか、下の階は店舗で上の階が自宅という上下階のニコイチや従業員10〜20人の会社が入っている横並びニコイチのオフィスがあっても面白いと感じます。そこで働く人が団地内で住まいを構える可能性も出てきますし、ランチはどうしようかとか、また別の需要が生まれるので賑わいにもなります。もしこれからそういったコンペをされるようなら、また挑戦したいと思います(笑)

プロフィール

株式会社ナノメートルアーキテクチャー一級建築士事務所
HP:https://nm-9.com/
家具から公共建築まで様々な分野、規模を全国で手がける名古屋を拠点とした設計事務所。建築の萌芽にもなっていない小さなことも積み重ねていくボトムアップの姿勢で建築というものを捉え、取り組んでいます。



野中 あつみ(のなか あつみ)
1984年 愛知県一宮市生まれ
2009年 名古屋大学大学院工学研究科修士課程 遺伝子工学講座修了
2011年 専門学校都市デザインカレッジ愛知建築科卒業
2011-2016年 吉村靖孝建築設計事務所在籍
2016年 ナノメートルアーキテクチャー設立
2019年 東海工業専門学校金山校非常勤講師
2020年〜 大同大学非常勤講師、名古屋女子大学非常勤講師

三谷 裕樹(みたに ゆうき)
1985年 大阪府豊中市生まれ
2009年 修成建設専門学校卒業
2013年 三重大学大学院工学研究科建築学専攻修了
2013-2014年 三重大学施設部施設整備チーム在籍
2014-2017年 SUPPOSE DESIGN OFFICE 在籍
2017年 ナノメートルアーキテクチャー
2018年〜 大同大学非常勤講師
2019年〜 名城大学非常勤講師

受賞歴
2017 「Under 35 Architects exhibition 2017 」入選
2017 東京建築士会主催 第3回「これからの建築士賞」入賞
2019 第36回住まいのリフォームコンクール 優秀賞
2020 第27回愛知まちなみ建築賞
2020 池田町ハーブセンターガラス温室改修工事実施設計提案 最優秀
2020 SKY DESIGN AWARDS 2020 Bronze

メディア掲載
2020.05 KJ2020年6月号ナノメートルアーキテクチャー特集号
2020.08 新建築住宅特集2020年9月号「志摩の家」
2020.12 毎日放送 住人十色「志摩の家」