インタビュー
【リノベ45】限られたスペースでも快適に暮らせるようにリノベーション > インタビュー


「平成29年度公社茶山台団地・香里三井C団地住戸改善事業設計・施工業務事業提案競技」において最優秀作品を受賞された設計者の方々にお話を伺いました。

今回提案された90㎡リノベーション「ニコイチ」と45㎡リノベーション「リノベ45」のプランは共通したコンセプトで設計されており、このインタビュー記事は、「ニコイチ」と「リノベ45」の共通した内容となっています。
※間取り図は異なります

ニコイチ・リノベ45設計者インタビュー

Plan 1

「団地は磨けばダイヤモンドになる“原石”」

今年、株式会社新宅工務店大阪とハプティック株式会社が共同で設計・提案した作品は、「大阪府住宅供給公社茶山台団地・香里三井C団地住戸改善事業 設計・施工業務」の事業提案競技において、 A業務(茶山台団地リノベーション)の最優秀提案者として選定されました。そこで今回はデザインを担当したハプティック株式会社のお二人にお話を伺いました。

元々、団地に対してどのようなイメージを持たれていましたか?

荒山氏)団地って1・2階は埋まっていても4階以上は空家になっていたり、ネガティブなイメージをエンドユーザーに持たれてしまうんです。弊社はリノベーションを手掛けているかたわら、物件紹介サイトの「グッドルーム」を運営しているので仲介業者的視点も持っています。その視点から見ると、団地だからこそ面白いものを作っていかなければならないと考えています。おそらくそういった危機感を持っている方は多くて、各地の団地で様々な面白い取組みが行われていますよね。そう考えると団地は磨き方でダイヤモンドにもなる「原石」だと思います。

設計のコンセプトを教えてください

武尾氏)ニコイチ・リノベ45の3プランで共通して大事にしたいのが無垢フローリングです。弊社はいつも無垢材を使ったリノベーションを行っているので、予算的な面で厳しくなっても「無垢を張りたい!」という気持ちが社内の共通認識としてあります。あとは、住棟にエレベーターがないことや立地的にアップダウンの多いことを考慮して、家の中で長い時間過ごすための仕掛けを各プランに盛り込みたいという思いがありました。

ニコイチ「ママが主役。充実のキッチン空間がある家」間取図
ニコイチ「ママが主役。充実のキッチン空間がある家」イメージパース

ニコイチ「ママが主役。充実のキッチン空間がある家」間取図、イメージパース

武尾氏)まず「ママが主役。充実のキッチン空間がある家」に関してはキッチンがメインのお部屋ですね。壁付のキッチンを思い切って対面キッチン化しているのが大きな特徴です。またキッチン横にはお子さんがお手伝いしやすいようにキッチンの高さと合わせたカウンターを設置しています。家族が集うための仕掛けですね。
反対側の居室にはシナ合板張りの大きなオープン収納を置いているんですが、木の箱が室内にあるようにデザインしました。あとは全面に無垢フローリングを貼るのではなく長尺シートを床にポイント使いしています。無垢材の木目とプレーンなグレーの対比が逆に面白い仕上がりになっています。

ニコイチ「家族を繋ぐ、インナーテラスがある家」間取図
ニコイチ「家族を繋ぐ、インナーテラスがある家」イメージパース

ニコイチ「家族を繋ぐ、インナーテラスがある家」間取図、イメージパース

武尾氏)次に「家族を繋ぐ、インナーテラスがある家」ですが、こちらのタイプは住戸間の壁が壊せない構造だったので、普段からバルコニーの出入りを何度も繰り返すだろうなということを念頭に置いてデザインしました。バルコニーの近くにインナーテラスを設けているんですが、室内に入っても半屋外の雰囲気があるのがポイントです。少し腰かけられるようなベンチを置き、意図的な柱・梁を設けています。床は多少水をこぼしても問題ない材質のシートを貼っているので、植物を育てたい方には絶好のスペースになるだろうと思います。現実的な使い方ですと、部屋干しもおすすめですね。
あとはリビング横の居室は、完全に壁で区切るのではなくカーテンレールを設置しています。自由に空間を仕切れることで将来的にフレキシブルに対応できると思います。

荒山氏)冬の寒いときにバルコニーを通って部屋を行き来するのは、ある程度モチベーションが必要だと思うんです。なので、子どもが楽しめて、思わず「隣の部屋に行きたい!」と言ってしまうようなインナーテラスを設けることにしました。

リノベ45「無垢床が気持ち良い広々リビングのある家」間取図
リノベ45「無垢床が気持ち良い広々リビングのある家」イメージパース

リノベ45「無垢床が気持ち良い広々リビングのある家」間取図、イメージパース

武尾氏)「無垢床が気持ち良い広々リビングのある家」は玄関を入ってすぐに土間風の空間があって、そこは趣味に使えるマルチスペースとしています。かなり広いスペースを取っているので、自転車なんかも持ち込みやすいですよね。そこにプラスして長いカウンターを設けているので、書斎としても使えますし。先ほどのプランと同様、意図的に梁材を渡すことで、お気に入りのものをディスプレイすることもできます。
二人暮らしもできる部屋だと思うんですが、これだけ趣味の部屋を大きく取っているので、「ぜいたくな一人暮らし」をしたい方におすすめですね。

設計の段階で気を付けていることはありますか?

荒山氏)私たちの特徴は「グッドルーム」という仲介サイトを持っていることです。日々エンドユーザーと接していますので、日本のリノベーション会社の中で最も入居者視点を持っている会社だという自負があります。設計するプランナーとともに仲介業を行う社員がいるので、お部屋のプランやアイデアを仲介スタッフがすぐにチェックすることができるんですよね。最前線の入居者ニーズを詰め込んだプランを描くことを心がけています。

武尾氏)設計をする立場としては、「この素材を使った方がかっこいい」、「このレイアウトの方が良い」と自分が考えたことが必ずしもハマるわけではない点がおもしろいと思っています。自分がいいと思ったものでも、仲介スタッフに聞くと「入居者は求めていない」という話になったりするので…。設計者と仲介スタッフが協力して、入居者が喜ぶ間取りや仕掛けを作っていけるのは私たちの強みですね。

どのような方に住んでもらいたいですか?

荒山氏)家に愛着を持てる方に住んでもらいたいですね。ふつうリノベーションをしたお部屋は相場より家賃が高くなりますが、それでも住みたいという方は、「部屋に惚れている」と言えますよね。そういう愛着を持ってもらうって部分に「無垢フローリング」はぴったりです。無垢材は使い込んでいくとどんどん味が出てくるんですよ。極端な話をするとお寺を想像していただければ分かりやすいと思います。300~400年かけてたくさんの人がその上を歩くことによって、表面はなめらかでなんとも言えない渋みを出しますよね。なので、そのように味を増していく無垢をお部屋に使うことで、家賃が相場より高くなっても部屋に惚れ込んでほしい…愛着を持って長く住んでもらいたい…そこに尽きますね。

団地で行うリノベーションの可能性について聞かせてください。

荒山氏)冒頭にお話させていただいたように、団地は「原石」だと思っています。今まで茶山台団地で行われている団地リノベーションを振り返っても非常にレベルが高いものばかりなので、それを超えていこうとするのは、リノベーション屋としての自分たちの成長にもつながると思います。以前、弊社では泉北ニュータウンの栂・美木多エリアでも団地のリノベーションを行ったんですが、そのお部屋には大阪市内で部屋を探していた方が入居されました。その方は特に団地に対してネガティブなイメージを持っていなくて、大阪市内に比べたらお得に住めるなあという感覚なんです。そういう方に市内から郊外へと住んでもらい、「団地っておしゃれでお得に住めるんだよ」ということを定着させていきたいですね。

プロフィール

荒山知樹

荒山知樹
執行役員/関西・中部エリア統括マネージャー
同志社大経済学部卒、リクルート、ベネッセコーポレーションで企画営業を経てHAPTIC㈱入社。東京で3年間リノベーション営業マネージャーを経験し、3年前に関西・名古屋支店立ち上げで異動。

プロフィール

武尾篤

武尾篤
リノベーション施工部設計 主任
ICS College Of Arts卒、北欧コントラクト家具輸入代理店、商業施設デザイン事務所を経てHAPTIC(株)入社。3年間リノベーション設計業務に従事

ニコイチ・リノベ45設計者インタビュー

Plan 2・3

入居者さんが手を加えられるきっかけと可能性を残した状態でゆとりを持たせたい

木下昌大建築設計事務所の木下氏(左)・山崎氏(右)

今回、事業提案競技に応募されたきっかけを教えてください。

団地に対しての率直なイメージは「僕たちの親世代のために建てられた」というものでした。そういう面からみると一世代分の役目は果たしたと思うのですが、実際には今も住んでいる方々がいて、住宅を使いながら更新していかないといけない。壊して建て替えることが安易な開発だとしたら、更新するという行為は対極にあるものですよね。使いながら新陳代謝していくというか。そういう意味ではすごく難しいテーマですが、日本の住環境を引き継ぐ世代の建築家として、どこかで関わって何かしらの回答を出したいという思いはありました。

設計のコンセプトを教えてください。

前提として、ニコイチにするということは、家族一人当たりの面積にゆとりが持てるということです。そのゆとりの部分をどのように活かしていくのかと考えた時に、個室の数を増やしたり、リビングダイニングをそのまま大きくするのは違うような気がしました。何か別の切り口で余ったスペースを活かしたいと思い、「サンルーム」・「通り庭」・「ガレージ」という外部と内部をつなぐ「中間領域」となる土間のような空間を置くことにしたのです。戸建の住宅ではふつうに手に入れることができるそういったスペースを集合住宅でかなえることで、生活の幅が広がるのではないかと考えました。また僕たちが設計したニコイチは、構造上の問題で住戸の壁を壊せないパターンだったので、バルコニーと階段の踊り場で2つの住戸をつなぐことになります。2つの住戸をつないでいる外部の空間に対して、半屋外のものをワンクッション置けば、その部分の連続性というかつながりが強くなり、住まい手がうまくニコイチを使いこなせるのではと考えました。

リノベ45に関してはいかがですか?

リノベ45「サンルームがある家」間取図
リノベ45「サンルームがある家」間取図、イメージパース

リノベ45「サンルームがある家」間取図、イメージパース

基本的な考えは同じです。今回リノベーションした後に入居する世帯人数は、当初この団地が設計された時よりも、少なく想定されていますよね。当初は4人家族くらいの仕様だったはずですが、今回は1人~3人家族をイメージしています。そうなると家族一人当たりの面積にゆとりが持てるということです。そのゆとりに対してどうアプローチするか。余るべき場所というか、積極的に余ることになる場所というものをどのように活用するか。そういう意味ではニコイチと同じですね。

「サンルーム」、「通り庭」、「ガレージ」はどのような使い方ができると思いますか?

「サンルームがある家」間取図
「サンルームがある家」イメージパース

ニコイチ「サンルームがある家」間取図、イメージパース

「サンルーム」はバルコニーを拡張したような空間です。すごく高密度に建てられている現在の住宅に比べて、団地は住棟間隔がしっかり取られているので日当たりがすごくいいんです。日当たりのいいサンルームで朝ごはんを食べて、朝の時間をゆったり過ごせたらいいなあと思いました。床がモルタルなので、子どもが多少食べこぼしてもふき取りやすい仕上げです。また、観葉植物を室内で育てるのが一般的になってきたので、グリーンを楽しめる場所も備えられたらいいなという思いもありました。

「通り庭がある家」間取図
「通り庭がある家」イメージパース

ニコイチ「通り庭がある家」間取図、イメージパース

「通り庭」は回遊性のある形にし、その周りを様々な居室が取り巻いているイメージです。廊下のような役割なのですが、そこを土間床にしてスペースを大きく取りました。大きいスペースがあるだけで、友人を招いたり、子どもとゆっくり食事したりもできますよね。それぞれの部屋と通り庭とをどう使っていくのかは、住まい手次第かなと思っています。

「通り庭がある家」間取図
「通り庭がある家」イメージパース

ニコイチ「ガレージがある家」間取図、イメージパース

「ガレージ」は玄関を拡張したスペースなのですが、玄関周りにゆとりができると機能的な部分が充足されますよね。自転車をメンテナンスしたり、ベビーカーを置いたり。DIYもこのスペースでできると思います。何かモノを作れるスペースがあると、趣味の幅が広がりますよね。 また、この3つの空間のネーミングには気を配りました。ただ「土間」と言うよりも、なんとなくなじみのある「サンルーム」、「ガレージ」、「通り庭」と名付けた方が、「ここでこういうことしよう!」というイメージが湧いて使いこなしやすいですよね。

設計の段階では、住まい手のイメージなどはされますか?

設計する時は、自分が住みたいかどうかという視点で「こうあったらいいな」とイメージしています。今回の設計にあたっては、僕自身が現在子育て世帯なので、イメージしやすかったです。現代では、家に居るときにいかにストレスを解消できるか、リフレッシュできるかが重要だと思うんです。家が狭くておもちゃをしまう場所もないと、ある種のストレスを常に抱えていることになりますが、ニコイチは面積が広くてのびのびしているので、空間がとても豊かです。余計な作りこみをせず、入居者さんが手を加えられるきっかけと可能性を残した状態で、ゆとりを持たせたいという思いがありました。

その他こだわったことがあれば教えてください。

全ての居室を新しくきれいにリノベーションするのではなく、クリーニングのみ行うような居室があってもいいのではと思い設計しました。刷新した部分と昔の名残を残した部分が同時に見えてくる風景は独特のものですよね。時間を経た建物にしか出せない空気があると思います。

プロフィール

木下昌大(写真・左)
一級建築士、京都工芸繊維大学助教。1978年、滋賀県出身。2003年、京都工芸繊維大学大学院修士課程修了。C+A、小泉アトリエに勤務後、2007年にKINO architectsを設立。日本建築学会作品選集、グッドデザイン賞グッドデザイン・ベスト100、東京建築賞最優秀賞等、受賞歴は多数。

山崎雅嗣(写真・右)
一級建築士。1985年、高知県出身。2009年、横浜国立大学建設学科建築学コース卒業。2012年 、筑波大学大学院芸術専攻貝島研究室修了。2013年 よりKINO architectsに勤務。

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